NEXT DESIGN
代表インタビュー記事
avexで音楽制作のすべてを自分の中に叩き込んだ
-会社設立の経緯を教えてください。
(南 俊介: 以下略) 会社立ち上げ前はクリエイターとしてレコード会社のavexと専属契約を結んでいて作詞家、作曲家、編曲家として活動していました。avexでは10年間くらいになるのかな、avexで音楽制作のすべてを自分の中に叩き込んだ感じです。アーティスト活動をしていた時期もありました。
当時は音楽でプロを目指す人たちはみんなメジャーを目指してましたし、メジャーに行かないと始まらないくらいの時代でしたから、ソニーとかビクターとかワーナーとかいろいろレコード会社がある中で、avexなんてもう音楽やってる僕らにとってみれば天下のavexですよ、神々しいくらいの(笑) ここが一流と言われる世界なんだね ! みたいな。
そんなレコード会社ですから、クリエイターのレベルも桁違いに高かったですね。センスも抜群に良いし、音楽を作るスピードも尋常じゃなく速いし、その上クオリティーとか精度も異常に高いっていう。そんな中で揉まれたのは自分にとってすごく貴重な経験でしたし、今の自分を形づくっているのはavexで培ったものなんだと思います。
それで、レコード会社でずっと活動していくっていう道もあったと思うんですけど、僕としては自分の力だけで独力でやってみたかったし、そう思えるくらいに経験値を積んだっていうのもあるんだと思いますけど、元々大学生の頃なんて弁護士になりたくて司法試験の勉強とか色々動いてた時があったくらいなので、いつも心のどこかで困ってる人の力になりたいっていう気持ちが強くあったっていうか。弁護士よりも音楽に魅了されてしまって今に至るわけですが、音楽を通して人の助けになることをしたかったっていうのが会社設立の一番大きい動機ですね。
-司法試験や弁護士という言葉が出てくるとは驚きました。
そうなんですよ(笑) だからネクスト・デザインという会社も僕にとっては法律事務所と同じように考えてるところがありますね。何か日常生活で困った時は弁護士に相談するように、音楽で困った時には相談してもらえたらいいなと。頭の中に叩き込んであるものが六法全書か音楽かの違いはありますけどね(笑) 気持ちは一緒です。
-なるほど。そのような形の音楽制作会社さんというのは少ないんじゃないですか?
うーん確かに、会社の代表でもありクリエイターでもありっていうのはまだまだ少ないみたいですね。経理畑出身で音楽の作り手ではない社長さんがいて、その会社の所属作家がいてみたいな昔ながらの旧来のスタイルでとなると、運営上、制作予算も高くつきますし、作り手とクライアントさんの間に誰かしら入りますよね。依頼主と作り手との間にまったく接点なく曲が出来ていくのがむしろ当たり前みたいな。音楽はもっとダイレクトなやり取りでいいっていうか、その方が音楽として良いものになるっていうのを経験的に知っているのもあって、僕はこの先もそこにはこだわっていくと思います。
-確かに、音楽制作そのものに音楽以外の要素はいりませんよね。
そうですね。ネクスト・デザインという会社は特殊なネットワークで成り立っていて、「才能の人脈」って僕は呼んでるんですけど、すでに独力で活躍してるクリエイターだったりプレイヤーやエンジニアとかしか僕は信頼してないです。ある種の天才性を感じさせる人たちです。
だから会社としては外部とのつながりを強化していく方がクオリティーに直結させられると思っています。
狼なのか羊なのかの差は、音楽を作る力の差に直結してる
-従来の方法論ではない音楽制作会社を目指しているということですね。
会社を動かしていくエネルギーが「組織」っていうのが旧来の在り方だとしたら、ネクスト・デザインという会社を動かしていくエネルギーは「才能」だと思ってます。営業とか事務とか一般業務は別ですけど、音楽制作そのものに直結する部分は僕はその人間の才能しか見てないです。どこの生まれだろうと、どこの国だろうと、職歴がどうとか、履歴書の字きれいだねとか、どうでもいい。作る曲が良ければすぐ動きます。ただよほどの天才性を感じない限りはコンタクトを取ることはまずないんですけど、才能とはそういうものだと思ってます。
一匹狼タイプの作り手はみんな例外なくスキルが高いですから。その才能に自信があるから独力でやってるんでしょうしね。まだ数は少ないかな、もっとそうなれば日本の音楽のレベルもどんどん上がっていくのにって思ってます。
-確かに独力で動いている方たちは強い気が致します。
例えば税金のことでわからないことがあれば、ただなんとなく税金に詳しい素人に頼むより、税理士事務所を構えているプロの税理士さんに依頼しますよね。だから僕も自分の専門外で何かを頼む時は、必ずその道のプロフェッショナルに相談します。予算が掛かっても一番間違いない方法ですから。一番の近道っていう。
力のあるやつとか、才能あるやつとか、何かしらのポリシーで動いてるやつって、絶対に独力でやっててすでにいろんなフィールドで活躍してるんですよ。僕の知る限りでは間違いなく。狼なのか羊なのかの差は、音楽を作る力の差に直結してる感じですね。
-これまでもたくさんの楽曲を手掛けられていますね。
これは僕の性分なんでしょうけど、音楽に関してはすべての制作依頼を全部自分で100%把握してないと気が済まない性格なので、何百何千っていう曲を作ってきましたけど、曲のワンフレーズだけ聴けば、どんな制作内容だったかとか、メールで交わした言葉もバーって思い出せるし、どんな音だったかとかも一発で走馬燈のように思い起こせます。
音楽って普通の買い物と違う
この世界に残る人といなくなってしまう人の差がわかる
-法人さんや個人さん問わず制作をお引き受けされているとお聞きしました。
そうですね、誰もが知ってる大企業さんでも、一個人の方でも僕の気持ちはまったく一緒です。曲に注ぐエネルギーもまったく一緒です。そこで差をつけちゃうような人間には僕はなりたくないですし、強いものにはヘコヘコ、弱いものにはつらく当たるような人間にはなりたくないっていうか。むしろ逆で、例えば妙に横柄な会社とか失礼な人の依頼は全力で断りますが(笑)、困ってる人のためなら音楽のこと全然わからなくても構わないですし、制作料のことなんか忘れて力を注いでしまうことも多いかもしれないですね。ものすごい機材だって使用料なしでガンガン投入しちゃう。
今やネットで何でもやれる時代になって思うのは、現実よりネットの方がリアルになってきたなっていうことかな。昔はネットはあくまでも仮想空間でしたけど、今は逆に現実の方が建前とかしがらみで窮屈になってて、ネットの方が自由で夢がたくさんあるっていう時代になりましたね。ネットの方がむしろリアルっていう。
-ネットの進化は凄まじいですね。
確かにすごいスピード感だと思います。それと、音楽って普通の買い物と違うのは、いかに一人でも多く、一社でも多く自分の味方を増やすかっていうことが大事なんですよね。ネットの進化とかデジタルの進化で、昔なら絶対考えられなかったくらいのスピード感で凄いものが手に入りますよね。普通のショッピングならそれだけで完結ですけど、アーティスト活動であっても或いはベンチャー企業にしたって、自分の活動を高めていくには絶対に味方を増やしていく事が必須条件ですからね。それがリアルであってもネットでも今はもはや同じです。
結構ネットだとそこが盲点になりがちっていうか、例えば何かのイラストでお世話になったイラストレーターさんだったら、音源のスペシャルサンクスに名前を載せるとか、動画だったら映像作家さんの名前載せたり、レコーディングとかもエンジニアさんと仲良くなっちゃえばもの凄いマイク特別に出してきてくれたりしますしね。こっちもスタジオの宣伝してあげたくなっちゃうみたいな。ネットでも現実でも結局は何やるんでも人と人のやりとりなんですよね。
音楽なんて長くやってると、この世界に残る人といなくなってしまう人の差がわかるようになります。いわゆるコミュ力とはちょっと違って、ずっと音楽やって生きてる人って、人に感謝できるっていうか、うーんリスペクトっていうのかな、人を味方に付けるのがうまい。音楽だけじゃないでしょうけどね。関わるのも嫌な人間だったら誰も味方してはくれないし、あっという間に勝手に挫折していなくなっちゃう。味方がいればそこで何かしら助けてくれるんでしょうけど。
ネットって一方通行になりがちじゃないですか。自分がこうしたいっていうだけで、相手の人のこと考えなくなっちゃう。そこがこの時代、盲点になってるっていうか。もったいないですよね。せっかく味方を増やせるのに。
もはや僕に作れない音楽はない
-制作内容としては歌のあるポップスなどが多いのでしょうか?
半々ですね。J-POPとか歌もの半分、歌のないインストもの半分な感じです。
放送局とかソフトメーカーさんとか相手が企業さんの場合は会社間のやりとりでまったく問題ないんですが、アーティスト活動してる人にとってみれば、作曲にしろアレンジにしろ、会社に依頼するのって少し抵抗感があると思うんですよ。それは何でかっていうと、メジャー1強時代のなごりっていうか、曲制作をオファーするのって互いに事務所を通してマネージャーがいてっていうのが業界のルールでしたから、お金の力にモノ言わせて曲提供を依頼して良いものなのかなとか、メジャーに関わったことのない自分なんかが依頼して良いのかなみたいな、もしそういう抵抗感を感じてる人がいるとすれば、それはもう昔の話なので安心してくださいっていうことは言いたいですし、もし心配なら僕の名前宛てで連絡もらえれば、事務所とか会社とかそういう概念抜きに、ダイレクトに音楽を形にしましょうっていうことは伝えたいです。その時は僕も会社とか置いておいて一人のクリエイターとして動きます。
どんな形であれ、もはや僕に作れない音楽はないので…
-えっ! すべてのジャンルということですか?
制作予算によって可能、不可能は出てきますけどね。僕は子供の頃から新しもの好きっていうのかな、自分の知らない新しい世界はとことん知りたくなる人間なので、気がついたら音楽もあらゆるジャンルを自分の中に取り込んでた感じです。
ひたすら進化し続けるデジタルサウンドも、伝統的なアナログサウンドも、どちらにも良さがありますし、切り捨てた方がいい単なる古いものもあれば、古き良きものもあったり、僕にとってみれば、音楽を作ることってタイムマシンに乗っていろんな時代を巡る感覚に近いものがあります。特にシンセとかプログラミングで形にする音楽って限界値がないんですよ。新しいものが好きである限り。
-楽曲制作にタイムマシンっていう発想は面白いですね。
民族音楽から宮廷音楽、20世紀の音楽、これから先の未来の音楽を俯瞰で見てみると、ある種の方程式だったり、サウンドが一定の周期で時代を経て繰り返してたりとか、音楽をジャンルじゃなくて現象として捉えると面白いです。
60年代のドラム、70年代のベースライン、80年代のシンセとかボコーダー、90年代のサンプリングミュージック、00年代のオートチューンやボーカロイド、10年代のEDMやエレクトロ、ぐるぐる回ってるんですよね、音楽って。回りながら進化してる。時代で音楽を追っていけば、ジャンルは後から付いてくる感じっていうのかな。
今後の展開について
「EPIC」という可能性を秘めたジャンル
-南さんのコラムで共感覚の記事拝見しましたが、色で音楽が見えるというやつですか?
色でハッキリ見えますよ(笑) 細かい所まで。寒いからブルー、暖かいからオレンジとかそういう漠然としたイメージや肌の感覚ではなくて、この音はこの色みたいに決まってる。30個の音があれば30色っていう。だから音楽って1秒で全体が見渡せるんですよ。色が一瞬でドーンって入ってきますから。
その調和が取れていれば音楽としての完成度が高くなるので、そこを目指して作っていく感じです。無限にある色のグラデーションを曲の中でジャストミートさせるっていう。すみません、これあんまり人に理解してもらえないんです。
-いやいや、とても面白いと思います。
よろしければ、今後の展望などをお聞かせください。
これから新しく打ち出していこうと思ってるんですが、「EPIC」っていうジャンルがあって、これは皆さん一度はどこかで耳にしたことがあると思います。ド派手なオーケストラサウンドで、例えば、ハリウッド映画の予告編だったり、アスリートとか格闘家の入場曲だったり、新製品のイベントとか、新車発表会なんかで海外ではよく使われてますね。日本ではまだまだ知られてませんが、すごくポテンシャルを秘めた音楽なので注目しています。
ハリウッド映画の予告編のド派手なオーケストラも合唱隊の音も、あれ実は一人の人間がすべてコンピューターで構築してるんですよ。
-えっ! そうなんですか!?
作品によっては本編も。超精巧に作られたリアルなCGみたいなもので、その音楽バージョンって感じですね。むしろ派手さでは生演奏を超えてしまってるっていう。人力ではあの迫力を出すことが出来なかったりするんです。このCG、現実よりも美しいじゃんみたいな現象ですね。
ただ作るには相当ハードルが高い。作曲センス、音楽理論、サウンド、エンジニアリング、マニピュレート、音楽を作るのに必要な才能すべてが要求されますからね。誰にでも作れる音楽ではないでしょうね。制作機材とか音源の投入費もかなり大きいですし。
その「EPIC」を打ち出していきたいなと。映像やインターネット、イベントやスポーツ関連とか、舞台芸術だったり、コンサートのオープニング曲とか、いろんなフィールドと相性が良い音楽ですし、音楽自体のレベルが高いので、大きな可能性を感じさせてくれるジャンルだと思います。
-今後の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。